notice me.
異変は何の前触れもなく突然起こった。
夜になると急に意識が遠のいて、気が付くと朝になっている。
体を起こすと、それまで確かに眠っていたはずなのに、まるで激しく体を動かしたあとのような疲労感がどっしりと全身を襲う。
一体自分は何をしていたのかと必死に思い出そうとしても、そこだけ記憶が切り取られたようにただ真っ白な映像しか浮かんでこない。
そして、この奇妙な現象はここ数日間ずっと続いていた。
「調子はどうだ? どっか痛いとこないか?」
おかしいと思ったらすぐ言えよ――。
僕がこのわけのわからない現象に苛まれるようになってからというもの、エドワードさんは毎朝決まって僕の体の具合を尋ねるようになった。
そもそも、僕が夜突然意識を失うことに対して何ともだとは思わないのだろうか。
まさか気づいていない?
一緒に暮らしてるんだ、そんなはずはない。
しかし、このごろ以前よりよく笑うようになったエドワードさんを見ると、なぜだか僕はそれをきくことが出来なかった。
自分でも確かな理由はわからない。
でも、もし今彼にこの事を話したら全てが壊れてしまうような気がした。
「いいえ、なんともありませんよ」
そう、あなたは何も気にしなくていい。
あなたが安心して暮らせること、それが僕の一番望むことなのだから。
「そっか。ならいいんだ」
少しほっとしたような顔をすると、エドワードさんは机に散らばった図案や資料を整理しながらいつものように出かける支度を始めた。
夜中にアルの魂があいつにうつるようになってもう一ヶ月になる。
正直、最初はまた変な夢でも見ているのではないかと思った。
今でこそだいぶ慣れたが、こっちの世界にきてからは夢、あるいは幻想としか思えないような体験続きだ。
しかしそう思いながらも、オレはあの瞬間なぜか直感的に「こいつは確かにアルだ」とわかった。
こんなところで兄弟という絆が関係してくるのかは定かではなかったが、それでもオレの放つアルへの思いが今までハイデリヒであった目の前の人物を確実に捕らえていた。
「兄さん」
毎晩オレを優しく呼ぶその声は、確かにハイデリヒのものであるのに、頭の中では昔聞いていた懐かしい音のまま響いてくる。
「ここ、キツくない?」
いちいち確かめるようにオレの中を探るその指遣いも、真っ白なシーツの上に広がる長い金髪を時々からめる仕草も何一つ変わっていない。
「お前は何か感じるか?」
熱くなった身体の上に重ねられた白い背中に腕を廻し、赤い爪跡が残るくらい強く抱きしめながら問う。
「ううん。僕は今魂しかここに存在しないから」
「また……こんな……オレだけ……」
「その事は言わないって約束でしょ」
次第に激しさを増す二人の息遣いが静かな空間を切り裂く。
その闇をどんなに貫いても、光に届くことは永遠にない。
絡まる3人の想いの行方は……?
【続きは本へ】