――Family
「エドワードさーん!」
夕方、部屋で本を読みながらついうとうとしかかっていると、リビングの方から何やら明るい声がした。
はっとして無意識に時計に目をやると、先程時間を確認した時から既に二時間近く経っていた。
やっべ、もうすぐ夕食時か・・・・・・?
しかしいまいちまだ頭がはっきりせず、何かを食べようという気分ではない。
この本も読みかけだし、どうしようかと考えているうちに再び遠くで声がした。
今度はさっきよりもボリュームが大きい。
そういえばさっきも呼ばれて起きたんだという事をようやく思い出し、とりあえず向こうへ行ってみることにした。
「じゃ〜ん。」
「……あ?」
部屋のドアから顔を出すなり、窓際でにこにこしながら得意気に立っているアルフォンスが目に入る。
「どうです?なかなか立派に見えるでしょう」
ふと彼の隣を見ると、彼の肩の高さ程のクリスマスツリーがでんと置かれていた。
色とりどりのオーナメントで飾り立てられたそのツリーは質素な部屋を華やかに彩っている。
普通に比べればはそれ程たいした大きさではないが、この狭いアパートに置くには十分な迫力だ。
そうか、今日はイヴだっけ。
季節が変わっても二人とも毎日研究に没頭する日々だったので、そんな事はすっかり忘れていた。
気が付くと窓の外では雪が降っていて、目の前のツリーと自然に重なりより一層綺麗に輝いて見えた。
「へぇ、すげえな」
一体どこから運んできたのかと尋ねると、木はグレイシアさんに頼んで特別に仕入れてもらったのだと言った。
「このオーナメントは、僕が子供の頃よくクリスマスになるとツリーや部屋のあちこちに飾っていた物なんです。
ここ数年は一人暮らしでクリスマスらしい事なんてしばらくしていなかったんですけど、今年はこうして一緒に祝える人もいますしね。
せっかくだから、と思って」
アルフォンスが床に広げたオーナメントのケースや袋を片付けながら笑顔を向ける。
「一緒にって……オレ?」
思わず目をまるくする。
「当たり前じゃないですか」
他に誰がいるっていうんです、と言いアルフォンスはそのまま作業を続けた。
「……こういうの好きじゃなかったですか?」
エドがしばらく黙ったまま何も反応を示さないので、恐る恐る顔を上げ不安そうに様子を伺う。
そんなアルフォンスを見て慌てて口を開いた。
「ああ、いや、ちょっとその……嬉しかったって言うかさ。オレもそんな事もう長い間してないから」
リゼンブールで、母さん達と3人で暮らしていた時以来だろうか。
アルと旅をするようになってからも毎回ささやかに祝いの言葉を交わすぐらいで、
ちゃんと「家」と呼べるような場所でクリスマスを迎えられるのは久々だった。
こっちの世界で初めて感じる懐かしさかもしれない。
冬は外があれだけ寒い分夏よりも一層家の中の暖かみが感じられる。
しかし、なんとなく今自分が感じているのは温度による変化だけではないような気がした。
「なんか、こうしてっとちょっぴり家族が羨ましくなるな。
オレに家族団欒なんて記憶はほとんどないし、今はもう遠く離れちまってるけど」
そもそもうちの親父はあんなだから、と少し自嘲気味に笑って見せると、
アルフォンスはわずかに複雑そうな表情を浮かべてそのまま背を向けた。
しばらく窓から遠くを見つめるようにして黙っている。
そして独り言のようにぽつりとつぶやいた。
「僕達みたいなのは、家族って言いませんか」 「へ?」
オレは初めて聞く言葉でも耳にしたかのように、思わずアルフォンスを見つめた。
頭の中で何度か彼の言葉を繰り返す。
しばらくすると今度は急にいたずらっぽい顔になってアルフォンスが再びこちらを振り向いた。
その目がどこか寂しげだ。
「なーんて。すみません。ただ、ちょっとそうだったらいいなって。
兄弟で過ごすクリスマスってどんな感じなのかなと少し気になって……
エドワードさんとならなんとなくそれがわかるような気がしたんです」
可笑しなこと言っちゃいましたね。
アルフォンスは少し照れているのを誤魔化すように作業する手を速めて、空っぽの箱や袋を整理していく。
対するオレは真剣な面持ちでその場に立ち尽くしながら、一気に頭の中を様々なことが駆け巡った。
アルフォンスからそんな事を言われるのは初めてである。
思えば一緒に研究をしようと誘ったのも、こいつのところに転がり込んだのも全てオレからだ。
これまで弟に姿も正確も似たアルフォンスと過ごすことで安心感を得る一方、
それは自分のひとりよがりで、本当はここに居てはいけないのかもしれないと心のどこかでずっと引っ掛かっていた。
もう一度目の前のツリーを見る。
一つ一つ丁寧にバランスよく飾られたそれは、久々にあるべき場所に戻ってこの日を迎えられる喜びを余すことなく表現していた。
視線をずらすと同じく嬉しそうに、しかし少し切なげにかがんで床を整理するアルフォンス。
今初めて、自分の為ではなく彼の為に兄として側にいてやりたいと思った。
彼を弟の身代わりにするのではなく、自分が彼の兄の代わりとして。
それならお前は許してくれるか?アル――。
オレはまたしばらく黙りこくってしまっていたらしい。
アルフォンスがこちらを気にしながらわざと大げさな笑顔を繕って声をかけてきた。
「あ、さっきのは忘れてくださいね。ただ僕が勝手に――」
アルフォンスが最後まで言い終わらないうちに、オレはすっとかがんで彼の唇を塞いだ。
そのまま腕をそっと背中に廻し、優しく抱き締める。
つかの間の静寂が訪れる。
今ではその無音な静寂さえもが心の中で強く鳴り響いていた。
「……エ、エドワードさんっ!?」
ようやく我に返ったアルフォンスが、驚いて思わず大きな声を出した。
突然の事に慌てながら顔を赤らめている。
「一体何を……」
「なんか急にキスしたくなった」
もう一度アルフォンスの体を抱き寄せ、顎を肩に乗せるようにした。
やがて彼も同じように腕をまわし、そっとオレに体重を預けてくる。
お互いの表情が見えないまま、何も言わずに相手の温もりを確かめ合うようにしばらくの間そうしていた。
「来年はオレも手伝ってやるよ、飾りつけ」
そう言うと、少し間があってアルフォンスが喜びの混じった声を上げる。
「本当に?」
「おう。だから、もうしばらく世話になるぜ」
そのあとアルフォンすがちらっとこっちを横目で見たかと思うと、
可笑しなものでも見たかのようにくくっと笑い出す。
どうたんだと聞こうとする間もなく彼の方が先に口を開く。
「エドワードさん、顔が真っ赤ですよ」
アルフォンスが一旦体を離してオレの顔を覗き込んだ。
とたんに顔だけでなく一気に全身が火照っていくのを感じた。
「な、バカ、悪かったなっ。こんな狭いとこでくっついたら暑苦しくなるのは当然だろ!」
「くっついてきたのはそっちのくせに」
可愛い人だなあと言って、そのまま笑い続けている。
いつもならそこですかさず反論するのだが、
確かにアルフォンスの言うとおりなのでオレはむっとして何も言えなくなってしまった。
するとアルフォンスがふっと顔を和らげて、今度は向こうから抱き締めてきた。
びっくりして思わず体が固まる。
おかしいな、自分もさっき同じことをしたはずなのに、
こいつにされるとどうしてこんなにドキドキするのだろう。
「そういう素直じゃないところも好きですよ」
そして首を少し傾け優しくキスをする。
最後に彼はそっとささやいた。
メリークリスマス!
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サイト移転前、クリスマスに上げたテキストです。
さすがにもう時期外れなので載せるのやめようかと思ったんですけど、
テキストあまりに少ないので上げちゃいました(^^;
そのうち数が増えてきたら突然下げるかもです(何ていい加減な;;)
ほんわかあったかい雰囲気が伝われば良いな〜。
2005.12.24